富澤慶秀『「東京漫才」列伝』(演芸書籍類従)

富澤慶秀『「東京漫才」列伝』

東京新聞出版局 2002年

 記者の富澤慶秀が、21世紀の幕開け前後に採録した東京漫才師への聞書きをまとめた「東京漫才師達のインタビュー録」というべき一冊です。『東京漫才列伝』と仰々しいタイトルですが、中身は至って明朗な芸人録となっています。

「人気者から若手まで」というスタンスを取って、コロムビアトップ、リーガル秀才、内海桂子といった当時の長老から、笑組、ホームラン、ビックボーイズといった当時の若手まで30組(個人を含めて)にスポットを当てているのが特徴です。

 よくも悪くも「インタビューをまとめた芸談」という感じの本で、よく言えば「穏健で面白い」、悪く言うと「どこかで聞いたことのある話」という評価に落ち付くかもしれません。また、トップ、内海桂子、青空たのしなどはあくまでもピンでインタビューを受けているため、すごく悪く言えば「自分本位な発言」、それこそ相方が聞いたら怒りそうなことや主観を述べていたりします(こうしたコンビの関係の割切りは非常に難しい所なんですが)。

 そうした欠陥こそ持っている本ではありますが、今となっては「よくぞ取っておいてくれた」という芸談が揃っています。トップ、内海桂子、青空球児・好児など一度は一時代を取った人間は雑誌や新聞の記事、あるいは自伝などを執筆して詳しい経歴を知ることが出来ますが、「中堅・若手」などはある程度の地位や人気を築かない限り、詳しく書かれる事はないといっても過言ではありません。

 今日はSNSやブログがあるので、自ら芸歴を発信したり、思い出を発信する人が沢山いますが、その当時(2002年)はインターネットもまだまだ未熟なうえに、漫才師をここまで取り上げる本というのは、吉本でもない限りなかったので、それだけでも価値のあるというものです。

 ナンセンス、春風こうた・ふくた、Wモアモア、青木チャンス、ホームラン――などは寄席や浅草東洋館ではおなじみの芸人たちを「一人の主役として」取り上げて、詳しく芸談をとって経歴を書いているのは貴重と言えるでしょう。

 東京二・笑子、東京太・ゆめ子、新山ひでや・やすこといった「一時代を築いていたコンビを離れて、別の道を歩むようになった」芸人たちの姿を取り上げていたり、今となってはもう見られない女流コンビのセーラーズなどにもスポットライトを当てているのは、「列伝」と称するだけに値する価値が充分にあるというものです。

 今日ではおぼん・こぼんやナイツが話題の中心となって、ちょっとした漫才協会ブームが起こり、メディアも「面白おかしい協会員たち」の姿を取り上げるようになってますが、それ以前の協会員たちの姿や芸歴を知る上では欠かせない資料だと思います。

 ある意味では、東京漫才氷河期の中で懸命に生き抜いて、東京漫才のバトンを守り通した立役者たちの汗と涙と笑いの人生が詰まっている――と言っても過言ではないでしょう。

 何かと不足する昭和末~平成に活躍した漫才師たちの芸歴や姿を補完する、という点においてはこれほど優れた書籍もまずあるまい、と過褒気味ながらも評価しておきましょう。

取り上げられている漫才師たち(掲載順)コロムビアトップ、青空球児・好児、昭和のいる・こいる、宮城けんじ、春日三球、あした順子・ひろし、ナンセンス、おぼん・こぼん、春風こうた・ふくた、東京二・笑子、大空遊平・かほり、さがみ三太・良太、高峰和才・洋才、青空一歩・三歩、東京太・ゆめ子、新山ひでや・やすこ、セーラーズ、すず風にゃん子・金魚、Wモアモア、Wエース、大瀬ゆめじ・うたじ、東京丸・京平、青空たのし、青木チャンス、リーガル天才、晴乃ピーチク、笑組、ビックボーイズ、ホームラン、内海桂子。

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