萬歳類従

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 ここは漫才の資料や情報をまとめた「参考文献」の頁です。

 他の頁で扱っている参考文献の詳細や内容など、役に立ちそうなことを書き綴っていきます。どうしても更新は遅くなりがちですが、折を見て随時追加していく予定です。何卒よろしく。


・漫才研究のバイブル

『大衆芸能資料集成 第七巻 萬歳・万才・漫才』
小島貞二 編纂 三一書房 1980年 

 かつて三一書房がシリーズものとして出版していた『大衆芸能資料集成』の一巻です。このほかにも民俗芸能としての萬歳・神楽、にわか、軽演劇、落語、講談、浪曲とあり、どれもこれも資料的価値の高い一冊です。その中でも漫才篇は割かし入手しやすいのではないでしょうか。

 漫才研究をする上ではバイブルというべき名著です。漫才の歴史を触れる上でこの本を読まない人がいたら、まず疑ってかかり軽蔑されても已むをえない――と言い切ってもおかしくない程。

 100組近い漫才コンビの情報や速記は、今では入手困難なものも多く、非常に読みごたえがあります。当時の文面をそのまま引用しているのも大きいです。忖度しない点は、特に評価すべきでしょう。

 また、付録として掲載されている『聞書き』は、桂喜代楽、玉子家利丸・松鶴家日の一、桂金吾、松鶴家千代若・千代菊、島ひろし、松鶴家団之助といった古老から聞いた情報をそのまままとめてあり、当時の様子を知る上でこの上ない資料であります。

 一応漫才の歴史という名目上、東京漫才に割かれている頁は少なく、小島貞二の独断が含まれるのが弱点ですが、読むメリットの方が兎に角大きい名著です。


『漫才入門百科』
相羽秋夫 著 弘文出版 2001年

  相羽先生は大阪の人ですが、東京漫才の造詣も深く、この本の中でもその知識が生かされています。東西の漫才の違いを取り上げ、分析しながらも、両者分け隔てなく接しているのが何といっても特徴でしょう。

 東西漫才師一覧や系図なども掲載されており、また、東西の漫才の中に取り入れられた珍芸や漫才と深いかかわりのあった「江州音頭」や「女道楽」なども解説しているので、初めて出てくる言葉も大体知る事ができるでしょう。入門とはいいながら、研究書としても立派に通用する一冊だと思います。

 管理人・喜利彦を、漫才研究に引きずり込んだのはこの本がキッカケである、ということを正直に告白しておきます。


『漫才世相史』
小島貞二 著 毎日出版 1965年(改訂版は1978年)

大衆芸能資料集成』に比べ、分かりやすい文章と内容が特徴で、手頃なサイズと値段で未だに入手できる一冊です。入門書としてはこちらの方がいいかもしれません。

 もっとも、入門書とはいいながらも結構深いところまで考察や資料が展開されており、小島貞二独特の「にわか」「軽口」「茶番」「漫才」論や東京と関西漫才の区分やその比較などは、大変タメになります。

 残念なのは、少し小島貞二の主観が強く、不当な扱いをされている人や書かなくてもいいエピソードなども取り上げられていて、学術的に価値を損ねている点でしょう。但し、今から50年も前にこれだけまとめた点は高く評価すべきでしょう。

 肩を凝らせずに読みたい、まずは一冊何か読んでみたい、漫才を知りたいという人にはいいかもしれません。持ち運びが便利なので、これもいい所でしょう。


『上方まんざい八百年史』
前田勇 著 杉本書店 1975年

 タイトルを見て分かる通り、上方漫才を中心に扱った本です。しかし、東京漫才にも大きな影響を与えた上方漫才そのものを知るにはこの書が一番最適だと思います。

 上方漫才の源流である大道芸の萬歳や音頭などがどのように発展してきたかという事を様々な歴史的事象や資料を絡ませながら、ケレン味のない格調のある文章で綴られています。

 少し難しいのが欠点ですが、漫才そのものの歴史や民族芸能としての萬歳の視点からとらえている点と文章の格調では、一、二位を争う名著だと思います。

『お笑い作家の東京漫才うらばな史』
遠藤佳三 著 青蛙房 2002年

 演芸作家である遠藤佳三氏が自身の経験を踏まえて書いた東京漫才ブームの頃の一頁。晴乃チック・タックの大ブレイクから、当時の若手たちや漫才グループ21の人々の動向、演じられたネタの傾向、ツービートなどの躍進、そして低迷期――と、裏方として支えてきた人物の視点から、東京漫才の姿が、綴られています。

 特に筆者が見聞した、経験した漫才師たちの話や逸話は、資料的にも貴重です。一癖も二癖もある芸人たちの姿は、面白く、儚い。研究論文というわけではありませんが、それでも記憶や回顧録としては大変優れたものです。

 1960~80年代の漫才師を語る上では、ぜひとも押さえるべき一冊でしょう。

・漫才調査に欠かせない文献

『寄席がき話』
真山恵介 著 学習図書新社 1960年

 真山恵介は、本名、杉田憲治といい、新宿末広亭席亭の北村銀太郎の娘婿になった人物です。正岡容を師事していただけあってか、芸能の造詣が深く、末広亭の経営の傍ら、様々な芸人群像を残しました。ただ、この造詣の深さと筆が立つ点が仇となって、筆禍事件をおこし、新宿末広亭の経営から一線を退く羽目になるのですが――

 この本は、1958年から2年間『内外タイムス』に連載していた『寄席がき話』というエッセイ集をまとめた、所謂全集のようなものです。漫才は無論のこと、落語、講談、浪曲、色物と多岐にわたっています。
 末広亭に居た経歴から寄席の漫才に対しても多くの項目を執筆しており、当時人気のあった英二・喜美江、トップ・ライトだけではなく、サンプク・メチャコ、中禅寺司郎、春日富士松といった――マイナー勢にスポットライトを当てているのは、見逃せません。

 ゴシップ性が強いのと、やや噂が多く信憑性が当てにならないという欠点がありますが、まとまっているという意味では、非常に優れた資料といえるでしょう。基礎文献として活用するのには、もってこいというべきでしょう。 

『立川談志遺言大全集 第十四巻 芸人論Ⅱ 早めの遺言』
立川談志 講談社 2002年

 生前、過激な発言や厳しい芸能批評で賛否両論を引き起こした立川談志。その自信と毒舌は、生まれついた芸能好きと芸人に対する熱愛から生まれたもの、といっても過言ではないでしょう。

 利発で、記憶力抜群であった立川談志は多くの芸能見聞録を書き残していますが、その中でも特に資料的価値が高いのが、この一冊です。

 案外マイナーな本ですが、全集とだけあってか、好き放題筆の赴くままに書き散らしています。これまで制約や事情などで書けなかったマイナーな色物や落語家たちの話が、特に貴重です。

 当然談志の好き嫌いや独断が出てくるわけですが、その点を差し引いても、戦後直後から再スタートしたありとあらゆる芸人達の逸話や批評を余すところなく書いて見せるのは、立川談志の力量を伺わせます。また、若い頃趣味にしていた写真を載せた付録も貴重です。晩年の東喜代駒やら内海突破が写っているのが、ヒジョーに面白いです。

 あくまでも談志の一意見をまとめた本という枠を超えられませんが、それでも談志というカリスマの言説は、なまじ下手な資料よりも説得力があります。悪用厳禁といった所でしょう。

『漫才』
秋田実 主宰 漫才作家くらぶ 同人誌

 上方漫才の父と称される、漫才作家・秋田実が後輩の育成と漫才台本の整理のために立ち上げた同人誌です。同人誌という割には執筆陣は手堅く、後年、Wヤングややすし・きよしの台本を提供した人も寄稿しています。

 上方で出されていたものとだけあってか、話の中心は上方漫才になっているのは是非もありませんが、たびたび東京漫才も取り上げられているので侮れません。何よりも執筆陣が漫才師の理解者なので、媚びへつらいなくあるがままを書いているのが良い。

 毎月、東京漫才の動向をまとめた松原三郎氏の「東京通信」を筆頭に、多くの東京の漫才師が紹介されており、単発の記事や談話などでも度々東京漫才が出てきたりします。

 特に、16号掲載の『漫才グループ21』の紹介記事は、当時の若手――あした順子・ひろし、東京大坊・小坊、大空みつる・ひろしなどの経歴が知れて貴重です。

 短いながらも面白い記事揃いで貴重な資料ではありますが、残念なのが入手困難である点でしょうか。国会図書館にはあるため、一応見る事は、出来ます。

『笑魂系図』
花月亭九里丸 昭和36年 私家版

 花月亭九里丸は漫談家として知られていますが、上方演芸の調査や記録などにも尽力した影の功労者であります。その功績は桂米朝や月亭春松などと肩を並べる程でしょう。

 そんな九里丸の最後の仕事がこの『笑魂系図』です。系図という名の通り、関西の漫才師の師弟関係と生没年をまとめた労作です。師弟関係の概念が希薄で、混沌としていた漫才界にメスを入れようとした点は高く評価すべきでしょう。

 内容の大半は関西の漫才師で占められているものの(仕方ない事ですが)、東京の漫才師についても触れられているので無視はできません。特に震災前後に東京に来た漫才師の名前や、東西交流で活躍した面々も紹介されている点は、特に貴重であるといってもいいでしょう。

 漫才師の系譜として大変優れている事は言うまでもありませんが、私家版として身内に配られただけなので、世に出回ることがないのが最大の欠点になっております。管理人も、現物には一度しかお目にかかった事はなく、手元にあるのはその写しです。

 なお、生没年の有無を気にしないならば、相羽氏の「漫才入門百科」にも簡略な系図が掲載されているので、そちらを参考にするのも手です。

『芸双書5 ことほぐ』
小沢昭一・永井啓夫・南博 編 白水社 1981年

 これも『大衆芸能資料集成』同様にシリーズ物として発行された作品群の一つです。ことほぐ、とは寿ぐ。即ち、漫才の前身である萬歳を示したものです。他にもいろどる 色物の世界、さすらう サーカスの世界、さらす ストリップの世界、めくらます 手品の世界などがあります(全十巻)。
寿ぐと題されただけあってか、そのテーマの大半は三河万歳や才蔵市など萬歳に関するものが多いです。中でも才蔵市の研究などは、この本が一番詳しいのではないかしら、と思うくらいに詳しいです。

東京漫才に関しては、松鶴家千代若一代記が談話という形で、載っておりますが、これが大変厄介な代物です。千代若が嘘を吐きまくっています(1930年頃、喜代駒は漫才界に居なかった、東京漫才には四組しかいなかったなど)。鵜呑みすると絶対にバッシングを受ける(主に管理人から)可能性のある資料です。批判材料としては最良ですが、資料として使用するのは眉唾半分といった所でしょう。

 あくまでも永井啓夫など学者の考証・論文を参考にするための書物といっても、過言ではない気がします。東京漫才という視点だけで見れば、バイブルとは言い難い書物です。

・漫才師の自伝・評伝(単行本篇)

『漫才七転び八起き』
大空ヒット 青磁社 1989年

 戦後の東京漫才における巨匠・大空ヒットの自伝です。元来筆が立つ人だった事も味方して、漫才師の自伝にしては非常によく書けているものです。やはり学があったのでしょう。

 大分に生まれ、挫折を味わいながらも大きくなっていく立志篇、地方回りの芝居から漫才に出会うまで、上方漫才の五条家弁慶一座に入ったのを皮切りに、都上英二と出会い、正司一座に出入りするようになる日々とドロンを繰り返す修行篇、東京に出て東喜代駒門下に参じ、人気漫才師となるまでの飛躍篇、そして戦後の活躍と漫才界との確執を描いた激動篇――と、一つの人物史になっています。

 やや左派的な観点で綴られたところもなくはないですが、これは自伝の宿命というべきものでしょう。記憶力は抜群で、単に自分の周辺の事だけではなく、今となっては無名に等しい芸人たちの芸風や交流も描いていて、これが貴重です。また、時折出てくる写真――これも、ヒットの年輪を表す格好の材料というべきでしょう。ヒットという人の半生を通しながら、漫才がどのような道をたどってきたか、という事を知る事が出来ます。

『NHK聞き書き 庶民が生きた昭和 第二巻』
NHK取材班 NHK 1990年

 滝大作など、NHK取材班がまとめたドキュメンタリーの内の一冊です。戦争、商売、世相などを巧みに取り入れた作品ですが、この中に青木長之助の自伝が出てきます。これが青木長之助の半生を見事に綴ったものといえます。一級品の資料です。

 惜しむらくは頁数の関係で、青木長之助の自伝だけにとどまり、深い所まで掘り下げていない点です。これがもし完全版であったならば、東京漫才の見えざる闇も明らかになったかもしれません。

 それでも、ある漫才師の一生という点では、滝大作の簡潔な取材方法も合致して、コンスタントにまとめられています。

「東京漫才」列伝
富澤慶秀・内海桂子 編 東京新聞出版局 2002年

 2002年時点、漫才協会に在籍していた芸人たちの聞書きをまとめたものです。今は亡きコロムビアトップ、宮城けんじ、チャンス青木などといった芸人たちから、今では中堅、大御所として活躍しているメンツが若手、中堅として扱われていたりして、面白いです。

 管理人の研究範囲からでは、さがみ三太・良太辺りで打ち止めですが、あと20年くらいしたらもう少し価値が高まるのではないかなあ、と思う一冊ではあります。今でも活躍している人も出ているので、漫才ファンのみならず、寄席ファン、芸能ファンでも肩を凝らずに楽しめる一冊かと思います。

・漫才師の自伝・評伝(雑誌・新聞編)

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