アサヒ芸能新聞『関東漫才切捨御免』(演芸書籍類従)

アサヒ芸能新聞『関東漫才切捨御免』

『関東漫才切捨御免』は演芸作家・松浦善三郎(泉三郎)が1953年10月から1954年4月まで、『アサヒ芸能新聞』(アサヒ芸能の前身)に連載していた芸評です。「切捨御免」と称したように、当時の漫才師の芸風や動向を忖度することなくズバズバ切り捨てています。

 ぶっちゃけた事を申しますと、この連載は芸の批評としてあまり上質なものではありません。松浦善三郎の主観が強いですし、所詮は娯楽雑誌の芸評といったところです。

 にもかかわらず、この連載を高く評価するのは「戦後間もない頃に活躍していた東京漫才師がどういう芸風をしていたか」といった舞台記録的な側面を強く持っているからです。

 千太・万吉、英二・喜美江といった戦後のスター、林家染団治といった一芸の名人はハッキリとした記録が出ていますが、それ以外のメンツとなると記録が殆ど残っていません。

 漫才師の記録がしっかりと残るのは、1960年代の演芸ブーム以降が殆どです。

 残念ながら1940年代後半~1950年代後半の十数年は、東京漫才の歴史的な大きな穴となっております。その時代に漫才研究会が創設されて、漫才大会も数多く開催されていたにもかかわらず、です。

 直言すれば、この芸評がなければこの世にその芸風や人となりが残らなかった可能性さえあるのです。名簿や漫才大会の記録には残っているにもかかわらず、名前とコンビ名以外一切わからない――などといった事もあり得たのです。

 そうした中でこの芸評は、戦後の焼け跡から復興しようとする東京漫才の奮闘記――そして、戦前の幹部から千太・万吉、英二・喜美江といったラジオスターやてんや・わんや、桂子・好江といった若手たちへと漫才の主導権が移り変わっていく転換期の漫才事情を生々しく描いている。この一点だけで素晴らしい記録になっているのです。

 惜しむべきは、この『アサヒ芸能新聞』は入手しづらく、全部集めるには国会図書館だけでは足りず、早稲田演劇図書館、国立劇場図書館、大宅壮一文庫――すべてを廻る必要があります。

 その内容の写しは近日『東京漫才のすべて』に載せておくことにしますが(また一部は漫才師の項目でも紹介していますが)、ここでは「何月号に何が出ているか」というリストを作っておきます。

 いつかこの批評だけまとめて文献に残しておきたいと思っています。

1953年

10月4週号 東イチロー・ハチロー、内海桂子・好江、吾妻美佐子・武田章路(演劇博物館蔵)
11月1週号 富士蓉子・叶家洋月 東喜美江・都上英二 浅田家幸枝・章吾(国会)
11月2週号 唄の家歌丸・一八 港家おふね・柳歌 森ダットサン・トラック(国会)
11月3週号 大津万之助・万由美 マキノ初江・洋一 東京子・朝日日の丸(国会)
11月4週号 日森麗子・宮田洋容 大空ますみ・ヒット 日の本照美・マキノ洋子(国会)
11月5週号 萩奈良江・笑三 香川染千代・染団子 太刀村一雄・筆勇(国会)
12月1週号 川端米子・英主水 大朝家美代子・三升静代 青木長之助・松葉栄子(国会)
12月2週号 リーガル千太・万吉 隆の家栄龍・万龍(国会)
12月3週号 花柳君栄・大津万龍 林家お染・末広 林家美貴子・染團治(国会)
12月4週号 美和メチャコ・三福(国会)

1954年

1月1週号 藤原ひろみ・唄の文子 花柳つばめ・横山円童(国会)
1月3週号 荒川八千代・芳勝 柳ナナ・青柳ミチロー(国会)
1月4週号 木村咲子・千代の家計之助 大朝家豊子・林家染寿(国会)
1月5週号 京美智子・大江笙子 東和子・西〆子(国会)
2月1週号 大和わかば・かおる 宮島一歩・三国道雄(国会)
2月2週号 休載(喜利彦蔵)
2月3週号 美島詩子・白浜浩一 大津検花奴・菊川時之助(国会)

2月4週号 大和家八千代・酒井義二郎 富士三春・神林菊太郎(喜利彦所蔵)

ここで一度廃刊となり、4月になって「東西芸能出版社」に統合され、新しく発刊される。

4月1週号 未見
4月2週号 敷島和歌子・松尾六郎 森秀子・信子 永田一休・和尚(大宅壮一文庫蔵)
4月3週号 都路重子・杉ノボル 坂野比呂子・比呂志 花園八重子・石田一雄 国友昭二・南道郎 コロムビアトップ・ライト 滝喜世美・中禅寺司郎(大宅壮一文庫蔵)
4月4週号 獅子てんや・瀬戸わんや 桜川美代鶴・ぴん助 桜町千早・永田太宏 柳家こたつ・互楽 小原福奴・松廼家錦治 木田鶴夫・亀夫 大沢ミツル・直井オサム(大宅壮一文庫蔵)
5月1週号 杉まり・ひろし 北條恵美子・出雲友衛 阪東多見子・多見八 秋野華枝・笑福亭茶袋 小桜セメンダル・錦之助 太田家はつえ・五郎(大宅壮一文庫蔵)
5月2週号 林家染子・染次 丸の内権三・助十 宮川美智子・橘エンジロー 浅草春千代・富士一郎 東ヤジロー・キタハチ(国立劇場蔵)
5月3週号 あとがき 捨てよ他力本願 有名無実な関東漫才協会(国立劇場蔵)

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