井上宏編 『放送演芸史』
世界思想社 1985年
笑学研究を称する社会学者・井上宏がリーダーとなって相羽秋夫、熊谷富夫、長島平洋、環白穏、都築敏子、山口洋司、古川嘉一郎といった演芸・マスコミ研究関係者がそれぞれ寄稿して生まれたのがこの『放送演芸史』です。
書いて字のごとく、「放送と演芸がどのような関わり合いをもってきたか」という事を命題に、論が展開されています。
執筆者が関西勢が多いだけに、記事の傾向は「朝日放送」「読売テレビ」「関西テレビ」といった関西系の番組が多くなっていますが、それはそれで貴重な資料が多いです。
むしろ、関西関係の番組や娯楽放送を知りたい場合は、この本を読まずに何で知るか?!という感じさえあります。これは欠点というよりかは「どういった命題で記しているか」という方向性の違いでしょう。
NHKのラジオ放送事始めから論を切り出し、「落語・講談」一辺倒の放送から「漫才・浪花節」がその人気を掌握するようになり、戦後は民放の発生で演芸もまた多様化を見せる――という姿を見せています。
特に、序章の井上宏が担当した「演芸と放送の関係」「NHKにおける演芸番組の変遷」は東京漫才も対象にしており、「これだけの芸人がこれだけ出た」という一つの目安として非常に参考になった経緯があります。
とにかくそのデータ一つ一つの内容が濃く、情報が積み切れないほど入っています。この本ばかりは『論より証拠』。見てもらう方がいいのではないでしょうか。
本当にすごい書籍です。「演芸と放送の関係」「演芸と放送の密接なつながり」といった基礎的な物を知る上では一番いい書籍だと言い切れるほどです。
当時、放送黎明期の関係者がギリギリ生き残っていた時代、当時を知る関係者に聞きまわっているほか、地方新聞や芸能雑誌までひっくり返して、番組の変遷を追おうとする姿は敬服に値します。
また、演芸関係者が多くいる事もあって、貴重な資料や写真がそのまま引用されているのも凄く貴重なポイントです。当時のスタジオやセットで実演をする漫才師や、記念撮影に臨む芸人たちの姿が余すところなく写されていて、今となっては「この人はこういう顔を、こういう人気をしていたのか」という一つの参考資料にもなっています。
少なくとも「演芸番組」「バラエティ番組」の研究をする場合は、絶対に押さえておきたい一書ではあります。
持っておいて絶対に損はありません。演芸ファンは見つけたら買うべきです。それ位素晴らしい書物です。