小島貞二『昭和演芸秘史』(演芸書籍類従)

小島貞二『昭和演芸秘史』

講談社 1981年

 演芸研究家・小島貞二がこれまでの調査や聞書きをまとめた「大衆芸能史の入門誌」というべき代物です。ガチガチの考証を加えた『大衆芸能資料集成』よりも優しく、『漫才世相史』よりも色々なジャンルを集まっています。

 特筆すべきは漫才以上に見向きもされてこなかった新作落語、漫談、歌謡漫談、声帯模写、雑芸といった部類も紹介している点です。当時の一流大御所と面識のあった小島氏だけに非常に興味深い内容や逸話がつづられています。

 写真も豊富で貴重な資料も揃っています。戦前戦後に勃興した漫談・歌謡漫談などの歴史の地盤を作りたい場合はこの本一冊で事足りると思う程です。

 また、本論に入る前の第一章に「昭和の笑芸の証人たち」と題した座談会を掲載しているのがヒジョーに貴重です。これは元々「漫談ボーイズ全員集合」というLPレコードの解説代りに収録されたものですが、レコード以上に資料的価値が高いという理由で転載されたものです。

 当時、漫談や歌謡漫談の第一線にいた奇術のアダチ龍光(昔は声帯模写もやった)、活動弁士で司会漫談家の西村小楽天、二代目猫八を名乗っていた木下華声、あきれたぼーいずの生き残り・坊屋三郎、シャンバローの柳四郎、声帯模写の桜井長一郎、司会漫談の宮尾たか志といった面々が、「漫談」「声帯模写」「歌謡漫談」とそれぞれの分野の勃興や逸話、功績を語り合っています。

 それぞれが先輩後輩として交わりながらも、時々鋭い一言を言ったり、思いがけない証言を話す点など――座談会ならではの面白さがあります。

 当時すでに物故していた川田晴久(あきれたぼーいず)、初代江戸家猫八、柳家三亀松、徳川夢声、大辻司郎、西村楽天といった一時代の名人たちの逸話や伝説もなかなか見ごたえのあるものです。

 惜しむらくは「話をうのみにしたのであろう」というような誤りがある点です。

 例えば――漫才では荒川清丸のいい加減な発言をうのみにしている事。漫談では「大辻司郎が漫談の言葉を作った」という伝説をそのまま書いてしまっている事。歌謡漫談や声帯模写でも「ん?」というような記載があります。

 しかし、小島貞二がこれを出した時代にはその調査範囲が限界だった――という事を考えると、そこまで責める気にもなりません。むしろこの当時、これだけの事をかけたのが脅威というより他はありません。アンテナの高さに敬意さえ覚えます。

 あくまでも我々が「これは古い資料」と少しだけ構えて読めばいい話でしょう。そして、これらの資料を元にアウフヘーベンをしていけばいい事なのです。

 演芸研究を志す人は一冊持って置いて絶対に損はない資料ではないでしょうか。古本屋でも普通に見かけますし、そこまで入手困難という代物でもありません。

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