相羽秋夫 『上方演芸人名鑑』(演芸書籍類従)

相羽秋夫 『上方演芸人名鑑』

少年社・1980年

『漫才入門百科』の作者である演芸評論家・相羽秋夫の事実上のデビュー作です。

『名鑑』と称するように、1980年当時健在だった芸人と、それ以前に亡くなった(1964年以降ころから15年間)芸人たちをまとめた人物事典のようなものです。

 元々は木津川計主宰の『上方芸能』の連載『上方演芸人名鑑』として数年ばかりやっていた(1970年代後半)はずですが、その連載に加筆や修正、追加を加えたのがこの本のそもそものはじまりというわけです。

 プロフィールは本名・生没年・出身地と簡単な経歴で構成されており、なんといっても目玉は「芸人の写真が掲載されている」ことです。

 しかもその写真の大半は宣材写真が元になっているため、わりかし明瞭で「こういう顔をしていたのか」と感心することが多いです。

 知人経由で伺った相羽氏の話では「松竹勤務時代に社内にあった写真やら芸人個人から資料を借りて作りました」とのこと。私的利用とも言い切れないですが、結果としてこれだけの資料を残したのだから結果オーライではないでしょう。

 著作権や肖像権という概念がまだ緩かった昭和だからこそできた一冊だと思います(もっとも私個人などは、非営利目的ならこういう目録を作るべきではないからと常に思っています。

 写真や資料はわかる人がいなくなったら、『誰が写っているのかよくわからない写真』『なんか書いてある紙切れ』という有象無象たる存在になってしまうのです)。

 プロフィールが簡潔すぎるのと、時には「これは違う」という経歴があるのは事実ですが、マイナー芸人にまで目を向けて経歴に迫ろうとする姿は敬服に値します。しかも資料の多くは大福帳や住所録、時には芸人本人にまで尋ねて構築しているので、当時の人物事典にしては信憑性が非常に高いのはメリットと言えるでしょう。

 惜しむらくは詳しい生没年(誕生日と命日)を省いてしまったこと、続編が出なかったこと(この本自体はあまり売れなかったそうで)です。

 この本の最大の障壁は「手に入らない」「あっても高い」ということです。幸い私はAmazon古本で出品された激安(1000円くらい)のを掴むことができましたが(その時の高揚感は今も覚えてます)、いま古本屋などを見ても五千六千は軽く行きます。大阪にいる人などは、大阪市立図書館にでもいって、『上方芸能』の写しを取ったほうがよほど安く収まるのではないでしょうか。

 いい著作にもかかわらず、手に入らないのは由々しき問題といえるでしょう。

 肖像権や何ならの問題をクリアして、人物辞典を完成させていたら、漫才史の定着はまた一味違うものになっていたかもしれません。しかし、それは相羽氏一人ではどうにかなる話ではなさそうです。

 中途半端に権威を持つ肖像権や著作権、プライバシーの権利とやらを憎みます。

 プロフィールや宣伝のために撮影した写真を使われて癪とはなんともナンセンスですし、しかも生きている当事者がクレームを入れるならともかく、死んでいるであろう人物や公演があって数十年も経っているようなパンフレットの写真や姿を非営利で公開するのも厭ったり、権利主張をする自称研究者には頭を抱えます。

 盗作や盗用が怖い、というのも分からなくはないのですが、コピーガードがある当節、いつまで死蔵を続けるのか、と一言嫌味を申しておきます。

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