小沢昭一『小沢昭一がめぐる寄席の世界』(演芸書籍類従)

小沢昭一『小沢昭一がめぐる寄席の世界』

朝日新聞社 2004年

 元々『週刊朝日』に掲載されていた対談集を一冊にまとめたものです。「寄席の世界」と称するように、ゲストは芸人や席亭、お囃子寄席関係者という徹底的な寄席づくしで構成されています。

 それも落語だけではなく、講談、浪曲、漫才、前座、お囃子、席亭、研究者、評論家と寄席を陰から支える面々まで取り揃えています。単に人気落語家や人気芸人だけを体面よく並べて「寄席特集」などと言っている本とは格が違います。

 寄席に強い情熱と愛着を持っていた小沢昭一だからこそできた企画と言えるでしょう。

 ゲストは掲載順に――

桂米朝(上方落語)、延広真治(落語研究家)、柳家り助(落語前座)、桂小金治(落語)、国本武春(浪曲)、小松美枝子(お囃子)、神田伯龍(講談)、あした順子・ひろし(漫才)、笑福亭鶴瓶(上方落語)、北村幾男(新宿末廣亭元席亭)、立川談志(落語)、矢野誠一(評論家)

 今ではこの世で二度と拝めない人が半数近く出ているのが時代を感じさせます。

 放浪芸やコメディを売りにした小沢昭一だけに話題を展開する力のすごさ、抽斗の大きさに驚かされます。それでいながら知識を鼻にかけない飄逸で、和気藹々としていて、時に確信を突く発言は、小沢昭一座談の骨頂といってもいいでしょう。

 最初は正岡容門下時代からの友人、桂米朝から始まり、ほとんど面識のない人から親友まで幅広く手掛けています。

 仲のいい友人になると昔話や噂の花が開き、一面識のない人でも真摯な態度で「今の状況」「演芸の抱える問題」などを深く切り込んでいきます。「演芸」を愛しながらも、中毒にはならない独特のバランス――時には皮肉めいた事を言っても嫌味にならないのは流石としか言いようがありません。

 当方は漫才研究をしているため、一番面白く感じたのはあした順子・ひろしの経歴です。小沢昭一が漫才通で、しかも司会や楽団の経験もある事から、司会者出身のひろしから色々な逸話を引き出しています。

 また相手も相手で話しやすさでもあるのか、ひろしと順子の不思議な関係をあるがままに喋っていて、漫才をそのまま見ているようです。

 また、面白いといえば桂小金治と神田伯龍の思い出話はずば抜けて面白い。「泣きの小金治」とうたわれた小金治が涙もろくなった経緯や桂小文治・柳家小さんとの麗しい関係は一読の価値があります。

 伯龍は伯龍で、ハチャメチャで厳格な師弟関係に加え、当時の講談の大スターだった大島伯鶴から粗削りながらもいい教えを受けた旨を歯切れのいい言葉で語っているのが見ものです。「芸は斯くして引き継がれてきた、心はこうして受け継がれてきた」というものを二人の逸話から垣間見る事ができます。

 21世紀になって発刊された事もあり、入手は普通にできます。古本でいいなら時たまブックオフでも見かけたりします。

 持っていて損はないので、財布に余裕あるようなら買っておいて時折パラパラ見ると面白い発見があるかもしれません。

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