小島貞二『演芸博物館 白編』
三一書房 1982年
演芸研究家でお馴染の小島貞二が昭和末に発売した演芸雑学をまとめた一冊です。「博物館」の通り、物凄くマイナーなネタが含まれています。白とあるように、この本は「紅・白」の二巻セットの下巻です。紅は6月、白は9月に発売されています。
内容は以下の通りです。
彩高座明治錦絵
芸談の中の名人たち
里う馬毒演会
三代目扇歌の怪談
幻の席亭会議
現の席亭会議
相変らずマイナー極まりない内容です。こういう研究を出せるのが出版社のゆとりなのでしょうか。
漫才に関する資料は余りないのですが、「幻の席亭会議」「現の席亭会議」は戦後直後の寄席の問題と、落語ブーム以降の寄席の問題の光と影になっていて、これは一読の価値があります。
「色物がない」「お囃子がいない」「名人がいない」と嘆く戦後直後のメンツと、「いい色物が居なくなった」「今の芸人は寄席を平然と抜く」といった昭和末のメンツの嘆き方が、それぞれ違う視点をみせており、「悩みの種は尽きないものだなあ」と思わせます。
また、孤高の毒舌っぷりを展開し、カルトな人気を博した「里う馬毒演会」の様子を再現した記事も貴重といえば貴重です。
小島貞二は川柳家・坊野寿山(里う馬と川柳仲間でもあった)から「里う馬のノートがあるんだが演芸に詳しいアンタなら……」とノートを託してもらい、それを読解したという経緯があります。段ボールはまだ小島家に残っているはずです。
前編の「紅」に比べると、江戸・明治といった古風色が強く、色物の要素は余りないのが難点ですが、明治の演芸や談話を探している人には一層面白く映る連載ぞろいだと思います。
古本の値段もそこまで高くないので、「紅・白」を一式取り揃えても全く損はないと思います。